DE&Iに吹き荒れる逆風。その理由と、本当にDE&Iは不要なのかを考える

トランプ再選と軌を一にするように、アクセンチュア、マクドナルド、グーグルなど大企業が次々とDE&I(多様性、公平性、包摂性)の旗印を後退させています。

果たしてこの流れは本物なのでしょうか。そして、本当に企業の成長にDE&Iは不要なのでしょうか。こうした疑念が一部で囁かれる中、私たちはDE&Iが単なる流行ではなく、組織変革のための本質的な戦略であることを強く主張します。以下、具体的なエビデンスや実例を交えながら、その理由と真のDE&Iのあり方について考察します。

目次

DE&Iが企業に与える実質的効果

多くの調査が示すように、実質的なDE&I施策は企業の財務パフォーマンスやイノベーション力を向上させることが明らかです。たとえば、McKinsey & Companyが発表した報告書『Diversity Wins: How Inclusion Matters』(2020年)によれば、ジェンダーや人種の多様性が高い企業は、業界平均を上回る収益性や市場成長率を示しています。同様に、Harvard Business Reviewも多様なチームが革新的なアイディア創出に寄与するという研究結果を公表しています。

これらのデータは、DE&Iが単なる「数字合わせ」ではなく、企業全体の成長や競争力の向上に直結していることを裏付けています。経営層が形式的な対応に留まらず、真摯に組織変革に取り組むことで、より健全なビジネス環境を構築できるのです。

流行と実態―DE&Iへの逆風の背景

一方で、近年大企業が「DE&I」の旗印を掲げる動きは、時に表面的な取り組みや形式的な施策にとどまっているという批判も存在します。特に、短期間で数値目標を達成するために、実態と乖離した施策が行われる例も見受けられます。こうした現象は、まさに「流行」に便乗した一過性の取り組みであり、組織内に根付いた変革とは言い難い状況を生み出しています。

しかし、このような逆風に直面しているからといって、DE&I自体が不要であると結論づけるのは早計です。むしろ、真のDE&Iは表面的な数字合わせではなく、組織文化全体を変革するための土台であり、企業が持続的な成長を遂げるための不可欠な要素なのです。

真のDE&Iの再定義―数字ではなく機会の公平を実現する

真のDE&Iとは、単なる数字の達成を意味するものではありません。重要なのは、以下の視点を再定義することです。

  • 機会の公平と多様な才能の発掘
    DE&Iは、結果としての平等を求めるのではなく、全ての従業員に公平な機会を提供する仕組み作りを目指します。能力主義を否定するのではなく、今の「能力主義」の定義にバイアスが潜んでいないかを考える必要があります。こうすることで、たとえば、長時間労働を基準とした評価など、従来の評価基準に潜むバイアスを取り除くことが可能となります。
  • 組織文化の変革による持続可能な成長
    表面的な数字合わせではなく、組織全体で多様な価値観や経験を尊重する文化を醸成することで、女性をはじめとする多様な人材が自らの能力を最大限に発揮できる環境が整います。その結果、男女ともに働きやすい職場環境が実現され、組織全体のパフォーマンスが向上します。
  • 交差性の視点からの取り組み
    単一の属性(性別や人種)に注目するのではなく、個々の背景や経験の違いを総合的に捉える「交差性」の視点が重要です。これにより、より細やかなニーズに応じた施策が実現され、真の意味で全ての社員が恩恵を受けることができます。

具体的な取り組みと成功事例

実際、DE&Iの本質を捉えた取り組みを行っている企業は、業績向上や社員満足度の向上を実現しています。たとえば、ユニリーバはリーダーシップ層における多様性促進のため、採用から育成まで一貫した戦略を実施しています。全社員が平等にキャリアを築けるよう、柔軟な働き方や包括的な研修プログラムを提供し、多様な視点を経営に活かす取り組みを進めています(Unilever Diversity and Inclusion Report 2019)。

また、セールスフォースは、全社員の平等な機会確保を目指して、評価制度や給与体系の透明性を徹底し、定期的な平等性のチェックを行う仕組みを導入しています。この取り組みにより、従業員のエンゲージメントが向上し、生産性の改善につながっている点は、多くの企業が学ぶべき成功事例と言えるでしょう。

日本とアメリカの状況の違いと日本が追随すべきでない理由

アメリカでは、個人主義が強く、業績評価や成果主義が企業文化の中心にあります。そのため、DE&Iの施策が比較的急進的に推進され、数字目標の達成を重視する動きが目立ちましたが、トランプ政権の誕生を機に、急速な揺り戻しが起こっています。

しかし、日本の企業文化は、長期雇用、年功序列、そして集団調和やコンセンサスを重んじる特性が根強く存在します。

このような背景から、日本でアメリカ型のDE&Iをそのまま導入することは、以下の理由で問題を生じさせる可能性があります。

  • 文化や価値観のミスマッチ
    日本では、和を重んじる文化や従来の階層構造が強固なため、急進的な数字目標を追う施策は、組織内の混乱や抵抗感を招くリスクがあります。内閣府が発表している『男女共同参画白書』でも、日本特有の課題が指摘されているように、単にアメリカの手法を輸入するだけでは根本的な解決には至りません。
  • 現場の実情との乖離
    日本の企業では、現場の声や実情を反映した合意形成が重視されます。したがって、表面的な数字合わせによる施策は、従業員の納得感やエンゲージメントを損ね、結果として組織全体のパフォーマンス向上には繋がりにくくなります。
  • 持続可能な取り組みへの転換が必要
    アメリカの事例は、環境や社会的背景が異なる中での話です。日本では、長期的視点での組織改革が求められており、単なる流行の追随ではなく、日本独自の労働慣行や文化に根ざしたDE&I戦略が必要です。

これらの理由から、日本はアメリカのDE&Iモデルをそのまま模倣するのではなく、自国の社会や企業文化に即した、より実効性の高いアプローチを構築するべきです。

結論

トランプ再選と同調するような一部大企業の動きに対し、DE&Iの取り組みを「流行」として一蹴する声も存在します。しかし、信頼性の高いデータや実際の成功事例が示す通り、真のDE&Iは企業の持続的成長を支える重要な柱です。さらに、日本においては、アメリカ型の表面的な数字合わせに頼るアプローチではなく、現場の実情や日本独自の文化を反映した施策が不可欠です。

真のDE&Iとは、画一的な数字目標の達成ではなく、全ての従業員に公平な機会を提供し、組織文化を根底から変革する取り組みです。これにより、女性をはじめとする多様な人材が能力を発揮し、結果として企業全体がより強固で革新的な組織へと変貌を遂げるのです。

企業が真にDE&Iを実現するためには、数字にとらわれることなく、現場の声に耳を傾け、日本ならではの価値観と調和した持続可能な取り組みを着実に実行する必要があります。この姿勢こそが、未来の企業競争力を決定づける鍵となるでしょう。

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